「華?どしたの?」



砂歩があたしの顔を下から覗きこむ。



「なんか元気ない……?」



「ううん。全然、元気!元気!」



恋してたなんて、いまさら気づいたって遅い。



この気持ちを砂歩に気づかれてはいけない。



絶対ダメ。



砂歩は、あたしが成を好きならあきらめようと思ったって、そう言ってた。



複雑な気持ちだった。



もしもあたしが成への気持ちにもっと早く気づいていれば、ふたりが付き合うことはなかったのかもしれない。



もしも……。



そんなこと考えても遅い。



恋ってタイミングが大事なんだね。



「ねぇ、そうだ!これ見て?」



砂歩は、パンをかじって、制服のポケットからケータイを取り出した。



「犬、飼い始めたんだ~。名前まだ決めてなくてさぁ」



砂歩は、ケータイに保存されていた犬の写真をあたしに見せる。



「トイプードル?」



「うんっ。名前どうしよ?華も考えて?」



無邪気に笑う砂歩を見て思う。



なんでよりによって砂歩なの……?



砂歩を裏切ったり出来ない。



「名前ねぇ……メロンは?」



「ふふっ。メロン?」



「砂歩がいま食べてるパン……メロンパンから思いついた」



「可愛いかもーっ」



「うそぉ?そんな簡単に決めちゃうの?」



適当に言ってみただけだったのに。



なんだか砂歩に申し訳ない気持ちになる。



「んじゃ、候補ってことにするっ」



砂歩は満面の笑みを見せた。