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色羽がこの世界から去って10年の月日が経つ。
10年前、あたしたちはまだ高校生だった。
高校3年の春、
色羽が家族と出掛けた最後の場所だと言って、あたしをその海へと連れていってくれた。
その思い出の場所でもあるこの海に、あたしたち家族はやってきた。
海を見ながら、砂浜を3人で手を繋いで歩いていく。
「パパぁー。おんぶー」
「しょうがないなぁ、彩葉は」
成とあたしの間には、娘が生まれた。
子供が生まれたら、“いろは”って名前を付けたいねって成と話していた。
男の子だったら、“色羽”にしようと思った。
でも色羽は色羽だから。
あたしたちと一緒にいた色羽は、たったひとりだけだから。
成とふたりで考えて、娘の名前は“彩葉”と書いて“いろは”と読むことにした。
“葉”には“ページ”っていう意味がある。
いつか娘が大人になって、自分の思い出を1ページずつ振り返ってめくるとき、
その思い出が美しく“彩られたページ”であるような人生を歩んで欲しい。
そんな願いを込めてつけた名前。
ねぇ、色羽……。
彩葉も、2歳になったよ。
色羽が家族とこの海に来たのも、2歳の時だって言ってたよね。