「華……。高校3年の夏のこと覚えてる?ふたりで海に行ったときのこと」
「覚えてるよ」
「あの時、華はさ、この先もずっと俺と幼なじみでいたいって言ったよな……」
「……うん……言った……」
「あの日、華の気持ちを聞いて自分でも納得したんだ。幼なじみでいよう、華への気持ちは、少しずつ消していこうって……」
あたしは自分の胸元をぎゅっと掴む。
「高校卒業してから、華と離れて暮らすようになって、ひとりの時間も増えて……」
「うん……」
「大学生になって、就職して、本当にたくさんの人たちに出逢った」
「うん……」
「それでも俺、やっぱり華のこと忘れられなかった……。どうしても忘れられなかった」
「え……?」
「華のことが好き。華しか好きになれない。たぶん、これからもずっと……」
涙がこぼれ落ちてく。
「あれからもずっと……あたしを想っててくれたの……?」
「離れてみて改めて感じた。華をここで待ってる間もずっと、華のこと考えてた。華のそばにいたい。そばにいて欲しい。俺は華のこと……初恋を思い出にはできない……」
「だって成……結婚したい人がいるんじゃ……?」
「え……?」
「福井くんがそう言ってたの」
「福井?あぁ言ったな、俺。大学の時も就職してからも、合コンに行こうってアイツうるさくてさ。俺は華のこと忘れられなかったし、合コンなんか行く気になれなくてさ。このまえは俺に紹介したい人がいるからって電話来たから、結婚したい人がいるって言った」
なんだ……。そうだったのかぁ……。
あたし本当に成が結婚しちゃうんだって思って……。
もう遅いんだって。
手遅れだって……。
「でも結婚したい人がいるっていうのは、本当だよ」
そう言って成はあたしの前に立ち、2本の黄色いタンポポの花を、あたしに差し出した。
「幼い頃ここで、色羽と俺、ふたりで華にプロポーズしたよな……。俺は、色羽の分も華のことを愛していく」
1本のタンポポは、成の愛で。
もう1本のタンポポは、色羽の愛。
成はそう言った。
「華が色羽のことをまだ好きだとしても、これから先、想い続けてもかまわないよ。俺だって色羽のこと忘れない。これからもずっと。俺にとっては、華も色羽もふたりとも、世界でいちばん大切なふたりだ」
涙が頬を伝ってく。
「華……俺と結婚してください」
あたしは涙を拭い、2本のタンポポを見つめる。
「俺のお嫁さんになってください」
あたしはゆっくりと両手を伸ばし、2本のタンポポを受け取る。
両手を広げると、タンポポの茎に通された指輪があった。
「華、俺と一緒に生きていこう。必ず幸せにする」
「成……っ」
泣きながらあたしが頷くと、成はあたしを抱きしめた。
あれからずっと。
離れてもずっと。
あたしを想い続けてくれてありがとう。
傷ついて、傷つけて。
たくさん遠回りもした。
長い間、待ち続けてくれてありがとう。
成……あたしは、
あなたのお嫁さんになります。
「華……」
「成……」
星空の下で、見つめ合うあたしたち。
楽しい思い出、
悲しい思い出、
幸せな思い出、
たくさんの思い出がつまっているこの原っぱで。
あたしたちは、
涙を流して、キスをしました――。