“……望月?おーい!聞こえてるかー?”
「あ、うん。ごめん。聞こえてる」
成に結婚したい人がいるなんて、知らなかった。
胸の奥が痛い。痛くてたまらない。
“俺の知り合いがさ、誰か男紹介してくれっていうからさぁ。そういえば成のやつ彼女いなかったと思ったから久しぶりに連絡したんだよ。そしたら結婚したい人がいるって言ってたからさ”
あたしに言ってなかっただけで、やっぱり成には付き合ってる人がいたんだ。
“大学のとき、成って彼女いなかったじゃん?俺がしょっちゅう成を合コンに誘ってたんだけど、成のやつノリ悪くて、何回誘っても1回も来てくれなかったんだよなぁ。いつのまに結婚したい人なんて出来たんだろーな?働き出してからかな?”
「さ、さぁ……?どうだろ……」
“望月って成と仲良かったよなぁ?なんか聞いてねぇの?”
――ピーッ、ピーッ。
ケータイの充電が切れかかっている音が耳元で響く。
「ごめん、福井くん!ケータイの充電切れそう……」
“あ、マジ?んじゃ、また日にち決まったら連絡す……”
――プーッ、プーッ。
電話の途中で、充電が切れてしまった。
あたしは耳元からケータイを離した。
成が結婚……。
成に結婚したい人がいたなんて……。
“まもなく2番線に電車がまいります。危ないですから白線の内側に下がってお待ちください”
アナウンスが流れ、駅のホームに電車が入ってくる。
あたしはまた、伝えたいときに、伝えることができなかったんだ。
自分の気持ち。
いつかこんな日が来ることなんて、覚悟してたはず。
色羽を想い続けて、成とは幼なじみでいると決めたときから。
成がいつか誰かと結婚する日が来るんだって……。
後悔したってもう遅い。
もう何もかも遅い。
自分のせいでこうなったんだから。
電車のドアが開く。あたしはベンチから立ち上がれなかった。
このまま何もしないまま……。
あたしは電車を見送るの……?
いま乗らなければ、電車は行ってしまう。
行ってしまう。
行ってしまう……!
成が―――!
「待って……っ」
――プシューッ。
ドアが閉まる。
「……ハァッ……ハァッ……」
あたしはなんとか電車に乗り込んだ。
――ガタン、ゴトン……。
電車がゆっくりと動き出す。
あの町へと。
あたしたちが生まれ育った町へと向かっていく。
もう遅いことはわかってる。
なにもかも手遅れだとしても。
それでも最後に。
最後に伝えよう。
成に自分の気持ちを伝えたい。
そして、すべてを成に伝えて、
今度こそ、初恋を終わらせよう。