「逃げてるって……あたしが何から逃げてるっていうの……?」
「華は、いまもまだ色羽くんを思い出にしたくないんだよ。手放したくないんだよ。だから成くんと向き合えないんでしょ……?」
涙が頬を伝ってく。
砂歩の言うとおりだった。
前を向いているつもりでも。
あれからどんなに時間が経っても。
毎日忙しく過ごして、自分なりに精一杯に生きてるつもりでも。
それでもふとしたとき、涙がこぼれる。
寂しくて、色羽に会いたくて。
でも会えないこともわかってた。
時間の流れとともに、少しずつ色羽のことを忘れてしまいそうになるのが怖くて。
それがとても怖くて。
あたしは、心のどこかでまだ、もがいてる。
色羽を完全に思い出にしたくない。
色羽を手放したくない。
なにもかも忘れたくない。
だから色羽を好きでいればいい。愛していけばいい。
これから先もずっと彼を想っていれば、いま、この瞬間も。
彼とあたしは共に生きていける。
いつも想っていれば、忘れることはない。
いつも想っていれば、記憶の中の“思い出す”という作業をしなくてもいいのだから。
でも成の元へ行ってしまったら、
成のことを好きだったあたしにまた戻ってしまったら、
色羽は……?
色羽を思い出す時間が少なくなったら?
色羽をきっと、少しずつ忘れていくんだ。
それがとても怖い。
怖くてたまらない。
あたしはずっと逃げてきたんだ。
「……あたし……色羽を……忘れたくないよぉ……っく……ううっ……」
砂歩は、膝を抱えて泣いてるあたしの体を優しく抱きしめた。
「……成と離れて暮らして……それでいいんだって……そぉ思ってた……」
「ん……」
「あたしは色羽を……忘れたくないし……色羽を想っていくって決めたから……だから……成のことも……縛りつけたくないって思ったの……」