胸の奥がズキッと音をたてる。
「な、なにがよぉ?」
あたしは平静を装った。
「なにがって……成くんのことに決まってるじゃない」
心配そうな顔であたしを見つめる砂歩。
「なんで成の話?いまさらもう何もないって……」
高校を卒業して、あたしは隣県の短大へと進学。
成は実家から通える県内の大学へと進んだ。
あたしが短大を卒業して保育士として働き始めた頃、成はまだ大学生活の真っ只中だった。
離れて暮らしているため、いままでのようには行かず、成とは自然と会えなくなっていった。
成は大学を卒業して、希望通りに生まれ育った町の役場に就職し、実家からさほど遠くない場所で、いまは一人暮らしをしている。
「成くんと連絡は取ってるんでしょ?」
「まぁ……たまにはね。幼なじみだし」
だけど昔のように毎日顔を見ることも、毎日連絡を取ることもなくなった。
週に1度、電話かメールするくらい。
「ねぇ、華」
「ん?」
あたしは箸で鍋の中の白菜を取り、口に運ぶ。
「このまま一生、幼なじみでいるつもりなの?」
あたしは口の中の白菜をゴクンと飲み込んだ。
「うん……。成も……いずれは誰かと結婚するだろうし」
「本当にそれでいいの?」
「自分がそぉしたんだもん」
6年前、高3の夏。あの海で。
成は、あたしを好きだと言ってくれた。
初恋を忘れられなかったと。
だけどあたしは。
成を好きだった頃のあたしにはもう戻れない……そう言った。
あたしは初恋を思い出にした。
成にこれからもずっと“幼なじみ”でいようと言ったのは、このあたしだ。
「成くんのこと……好きなんでしょ?」