働いている保育園では、現在、タンポポ組の担任を受け持っている。



午後のお昼寝の時間が終わり、子供たちを園庭で遊ばせていた。



今日の空は雲ひとつない青空だった。



陽射しも暖かくて、外にいると気持ちがいい。



「はーなーせんせーっ」



そう叫びながらこちらに走ってくるのは、タンポポ組の心(ここ)ちゃん。



いつも明るくてシッカリしている女の子だ。



「どしたの?心ちゃん」



「ともやとゆーやがまたケンカしてるーっ」



「えー?またー?」



心ちゃんに手を引っ張られながら、智也(ともや)くんと遊也(ゆうや)くんのいる砂場まで走っていく。



このふたりのケンカは毎度のこと。



「こらっ!ふたりとも!」



智也くんと遊也くんは、砂場の中で、全身砂にまみれながら髪や服を引っ張り合っていた。



智也くんと遊也くんは、双子の兄弟。このふたりも同じタンポポ組だ。



心ちゃん、遊也くん、智也くんは、ご両親同士が仲良しで、お互いの家に遊びに行くことも多いらしく、保育園でもよく3人で一緒にいる。



「ほらほら。もぉ、やめなさいってば」



あたしがケンカの間に入ると、遊也くんと智也くんはピタッと動きを止めた。



「仲良くしなきゃダメでしょ?」



「ダメでしょー?」



あたしに続いて、心ちゃんも同じセリフを繰り返した。



それが可愛くて、あたしは恐い顔をしていたはずなのに思わず微笑んでしまう。



「なんでケンカしてたの?」



あたしが聞くと、遊也くんが口を尖らせて小さな声でつぶやく。



「ここちゃんは、おおきくなったら、ボクのおよめさんになるんだもん」



遊也くんの言葉を聞いて、智也くんが頬を膨らませた。



「ダメだよ。ここちゃんはボクのおよめさんになるんだから」



ふたりとも心ちゃんのことが好きなのね。



あたしは笑顔で遊也くんと智也くんの頭を撫でる。



「でもそんなふうにケンカしてたら心ちゃんにふたりとも嫌われちゃうよ?ねぇ?心ちゃん?」



「うん。ケンカするひとキラーイ」



心ちゃんの言葉に、遊也くんも智也くんも肩をガクッと落とした。



「それにもぉね、およめさんになるひと、きめてるからぁ」



そう言って笑顔を見せる心ちゃんに、遊也くんも智也くんも顔を見合わせる。



「だれ?ボクだよね?」



「ちがうよ。ゆーやじゃなくて、ボクでしょ?」



ふたりは真っ直ぐに心ちゃんの顔を見て、その答えを待つ。