――24歳、春。
あたしは高校を卒業してから、隣県の短大へと進み、一人暮らしを始めた。
今いるこの町は、生まれ育った町とは違い、道を歩いていても人が多くて、
最寄りの駅の周辺には、オフィスビルやビジネスホテル、デパートなんかも立ち並ぶ。
ただ、駅から車を数十分ほど走らせれば、あたしが生まれ育った町のような田舎の風景が広がるし、あたしが一人暮らしをしている家からは海辺だって近い。
短大を卒業してからのあたしは、この町で保育士として働いている。
生まれ育った町で働くというのが第一希望だったけれど、新任の保育士の募集がなく、この町で働くことになった。
生まれ育った町には、豊かな自然が残っていて、たくさんの思い出もある。
自分の育った町は大好きだけれど、この町もそんなに嫌いじゃなかった。
一人で暮らし始めたこの町で、親のありがたみなんかも身に沁みた。