成とあたしは、琉生の元に駆け寄っていく。
「ごめんな、琉生」
そう言って成は、琉生の手をとり、握り締める。
「俺のこと憎んでるだろ?兄ちゃんのこと憎んでいいんだ。琉生、俺のせいでごめんな……」
「なにもわかんないまま、兄ちゃんと離れて暮らすことになって……すごく寂しかった。ずっと寂しかったんだ……」
「ごめん。本当にごめんな、琉生……」
琉生はうつむいたまま言った。
「でもボク……兄ちゃんのこと憎んでたわけじゃないよ」
「琉生……」
「兄ちゃんからの電話に出なかったのも、会いたくなかったのも……。一緒に暮らせないのに、そばにいられないのに、兄ちゃんのことが恋しくなるのが怖かったから……」
琉生は声を震わせて言った。
「だから兄ちゃんを忘れようとしたんだ」
どれだけ寂しかっただろう。
まだ小さかった琉生は、どれほど心を痛めたんだろう。
大好きだったお兄ちゃんと、離ればなれになってから。
ひとりで頑張ってきたんだ。
強くなるために、必死に歯を食いしばってきたんだ。
「琉生……ごめんなぁ……」
成は琉生を抱きしめた。
ふたりの姿をあたしは見つめる。
成に抱き締められて、下唇をぎゅっと噛みしめて涙をこらえている琉生にあたしは言った。
「ごめんね、琉生」
いつか絶対に謝ろうと思ってた。
成をこの町に引き止めたのは、成を手放せなかったのは、あたしだった。
そのせいで、成のことも、琉生のことも苦しめてしまったね。
本当にごめんね……。
「なんで華姉ちゃんが謝るんだよぉ?」
あたしは琉生を見て微笑んだ。
「本当にごめんね」
琉生は首を傾げた。
「琉生、大人になったね」
そうあたしが言うと、琉生は成の体から離れて言った。
「べつに……」
少し照れたように口を尖らせた琉生は、なんだか可愛かった。
「いまも琉生は星が好きなの?成に聞いたんだけど、幼い頃、星が好きだったんでしょ?」
「うん。好き。いま住んでる場所は、星があんまり見えないけど……」
「じゃあ、今日の夜はたくさん見れるね?」
あたしがニコッと笑うと、琉生は視線を逸らした。
「なんで?誰がこっちに泊まってくって言った?」
「え?琉生、泊まっていかないのか?」
そう言って成が寂しそうな顔をすると、琉生はため息をつく。
「わかったよぉ。今日はこっちに泊まってく!」
琉生の言葉に、成の顔が一気に明るくなる。
「本当か?本当だな?」
うれしそうに何度も聞く成。
「うん。だからさ、華姉ちゃんとゆっくり出掛けてきていいから。ボクはお墓参りしたら、家に行く。ばーちゃんと母ちゃんと話しでもしながら兄ちゃんのこと待ってる」
「あぁ、わかった」
成が微笑むと、琉生は照れくさそうに手を振って、改札へと歩いていく。
あたしたちは琉生の姿が見えなくなるまで、その場から見送った。
「よかったね、成……」
「ん……」
今日の夜は、あの場所で。
3人で流星群を見たあの場所で。
夏の星空を見に行ってきて。
琉生と離れていた時間を。
どうか、取り戻して。