あたしたちが来ても、おじさんは縁側に座ったまま遠くを見つめている。



誰かと話す気力も、動く気力もないんだと思う。



まるで抜け殻のよう。



おじさんがどんな気持ちでいるかは、成もあたしもわかってる。



あたしたちも同じだから。



あまりに突然の別れだった。



色羽がこの世界からいなくなるかもしれないなんて、想像もしていなかった。



信じられなくて、これが現実なのか夢なのかどうかさえ、わからなくなる時だってあった。



いまでもどうしようもなく悲しくて、苦しくて、涙が止まらない時がある。



寂しくて、逢いたくて。声が枯れるくらい叫んでしまいたい時だってある。



すべてを投げ出してしまいたくなる時だってある。



だけどあたしには成が、成にはあたしがいたから。



その人の前でなら、無理して自分を作らなくてもいい。



そのままの自分でいられる場所があった。



悲しみを分かち合って、倒れそうになっても肩を支え合って。



一緒に泣いて。



だからいま、こうしてなんとか生きてる。



でも色羽のお父さんは……?



こんなふうに悲しみを打ち明けられる人はいないんじゃないかって……。



あんなに仕事に対して一生懸命に生きてきた人が、こんなふうになってしまった。



成もあたしも心配でたまらなかった。



そして誰よりも心配してるのは、きっと……。



「いまのおじさんを見て……色羽が心配してるよ……」



そう呟いたあたしは、おじさんの横顔を見つめる。