教室に入ると、砂歩の姿を見つけた。
「砂歩ーっ!おっはよーんっ」
「華、おはよ」
「ねぇ、古典の宿題やってきた?」
「うん。見る?」
「見せてーっ」
大切な人が亡くなっても、時間は止まらない。
この世界の日々は続いてく。
前に、大好きなおばあちゃんを亡くしたばかりの砂歩に、
何か出来ることはある?って聞いた時。
なるべく普段どおりにして欲しいと言った砂歩の気持ち、
いまなら、なんとなくわかる。
“大丈夫?”
“大変だったね”
“つらかったね、頑張るのよ”
周りの人たちの言葉は、何度も繰り返される。
そのたびに、
“大丈夫です。心配かけてごめんなさい”
“悲しいけど、頑張ります”
“前を向いて生きていきます”
そんな同じような言葉を、笑顔で言わなきゃいけない。
心配してくれるのは、ありがたいことだと思う。
でも心配されてばかりいると、疲れてしまうんだ。
全然平気じゃない。平気なわけない。
それでも平気に見せようと涙をこらえて、震える声も抑えて、笑わなきゃいけない。
自分から明るく振舞っていれば、周りの人たちに心配させることもないと思った。
だから無理にでも、明るく振舞った。
学校でも、家でも。
クラスメートたちの前でも、先生の前でも。近所の人の前でも。
親の前でも。砂歩の前でも。
成の前でさえも……。