文化祭も、あっというまに1日目が終わっていく。
夕暮れで、空がオレンジ色に染まる中、ヒコーキ雲の白い筋が見えた。
クラスメートたちが下校していく中、俺は教室の前の廊下から、窓の外を眺めていた。
「おつかれ、成ー」
クラスのやつらが声をかけて帰っていく。
「おー。また明日なー」
そう言って手を振ると、廊下の向こうから華が歩いてくるのが見えた。
俺と目が合い、少し気まずそうな表情を見せた華。
華が俺の前で立ち止まる。
「成……」
「ん?」
「ブレザー、ありがとね」
「あ、うん」
俺は華からブレザーを受け取り、袖を通した。
「成……あのさ……」
華はうつむく。
「なに?」
普通にしなきゃな。
「ううん、なんでもない……」
華の様子がヘンだ。
もしかして俺がキスしたこと、バレてるとか?
いや、寝てたよな?
うん、寝てた。
じゃあ華の、この感じはなんなんだ……?
やめやめ。考えるのはよそう。
もう忘れるんだ。
「華、色羽は?」
俺が聞くと、華はうつむいたまま答える。
「見てないけど……」
「どこ行ったんかな、色羽のやつ。さがして帰ろうぜ?」
「うん……そだね」
華はその場から動こうとしない。
「なにしてんだよぉ。ブタ華。早くカバン取ってこいよぉ」
俺が笑いながら言うと、華は顔を上げた。
「なっ……またその呼び方っ!」
「フハハッ。怒ったんでブヒッ?」
「もぉ、成っ!」
走って逃げる俺を、必死に追いかけてくる華。
「待ちなさいよっ」
「やだよーんっ」
あの時はどうかしてたんだ。
なにもなかった。
俺たちの間には、なにもなかった。
そう思うことにするんだ。