「懇親会は後日ちゃんと開くから、ご安心を。今日は、仕事の話も残ってるので先に上がります。現場の事、ちゃんと伝えとくので、後はよろしく」
「申し訳ありません。お先に失礼します」
廣瀬さんと二人、同時に会社を出るという何とも不思議な状態で初日の仕事を終えた。
肩が凝って仕方がないのに、まだ力を抜けないことが俺には苦痛でしょうがなかった。
何より。
頭の中をさっぱり読めないこの上司と、どんな話をすればいいのか。
今の俺は、その事を考えるだけで精一杯だった。
「何か、食いたいものとかあります?」
「そうですね・・・特別苦手なものは無いので何でもいいですが、あえて言うなら和食ですかね」
「・・・へぇ。分かりました。じゃあ、いいとこ紹介しますよ」
「お願いします」
柔らかく笑う顔は、やっぱりどこか作り物のような気がしてる。
お互いの腹の内を探る食事なんて本当は楽しくないけれど、この人の本当の顔を知りたいという好奇心が湧いてきた。
初めて逢った他人に興味をそそられるなんて思いもしなかった。
ただ、その気持ちが無性に亜末に会いたくなっていた俺の心を何とか立て直してくれていた。