――――――プルルルルッ、プルルルルッ――――――




呼び出し音が鳴るのに、タクは電話に出てくれない。

もう少しで留守番電話に繋がってしまいそうなギリギリまで電話を鳴らす。

手が震えてきそう。

心臓が飛び出してしまいそうな程、私は緊張していた。




――――――お願い、出て――――――




プツッ、と音が途切れて一瞬の空白がある。

ぼやけたようなジーッと鳴る音に耳を澄ませて、息を呑む。





『――――只今、電話に出ることが――――』





耳に響いたメッセージは、待ち望んでいた人の声ではなかった。

機械的に流れるその音が、しんと静まり返った大崎さんの家のリビングに反響しているような気がした。



拓海。

今出てくれなきゃ、私、挫けそうだよ。



勇気を出してかけた電話が繋がることはなかった。

最後に着信があったのはたった十分前だというのに。


携帯から耳を離して留守電を残すことなく、その電話を切る。

通話になった画面が待ち受け画面に戻っていくのを見ながら、私は待ち受け画面が暗転するまで携帯電話から目を離すことが出来なかった。




聴きたいことが、沢山あったのに。

今電話が繋がって『そんなわけねぇだろ』と拓海が言ってくれたら、それだけで良かったのに。




必死に信じてる気持ちが、どんどん揺れていくのが分かった。

疑いたくなんて、ない。

これだけの着信を残してくれたタクを信じたい。


でも。

繋がらない電話が今の自分たちを表している気がして、フッと乾いた笑みが漏れた。