なんて愛しい人なのだろう。そう、心から思った。

不器用さも(それ故の率直さも)、ちょっとした臆病さも、そこはかとなく漂う優しさも、すべてを抱きしめたかった。

「本当に?」

「本当です」

本当に、大好きです。

って……汗がどうしたとかいう話だっけ。

「平気なのは、息を止めるから?」

「先生って、ほんっとうに意地悪なんですね。さらに、根に持つタイプだなんて」

愛おしいだなんて前言撤回すべきかしら、なんて。

私の言ったとりとめのない言葉をちゃんと覚えている先生が、やっぱりちょっと可愛く思えてしまった。

ずっと……こうしていたい。

「着替えたら送るので、少し待っていてください」

そっか……。

居心地がいいからって、いつまでもここにいるわけにはいかないものね。

「外は雨か」

「え?」

先生の言葉に、そっと目を閉じて耳を澄ますと微かだけれど確かに雨の音が聞こえた。

「いつの間に……。気がつきませんでした」

ここへ来るまでは、今にも泣き出しそうな曇り空を気にしていたはずなのに。

なのに――先生に夢中で、すっかり忘れて気づきもしなかった。

「今日こそは送らせてください。荷物もあるようですし。ね?」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

私が先生の腕をほどいて「お願いします」と頭を下げると、先生は「すぐ着替えてきます」と言いながら私の肩をさらりと撫でて、それから奥の部屋へと消えていった。