髪にかかる微(かす)かな吐息と、甘美に響くその声に、全身が素直に切なく震えてしまう。

田中先生になら、ちょっとくらい手荒なことをされても……なんて、恥じらいもなく思った。

その瞬間――。

「うわっっ!?」

ちょっとした浮遊感(?)があって、それから大きく体のバランスを崩された。

反り返るような格好で思いきり後ろに傾く私と、そんな私を左腕でしっかり支える田中先生。

右手はもちろん、先生にしっかりがっちり掴まれたままだ。

なんかこれって……いかにも社交ダンスにありそうなきめポーズ、みたいな? 

めちゃくちゃ無理な態勢なのに思いきり笑顔の男女のペアとかいるよね、なんて……。

っていうか、先生――けっこう手荒じゃないですかっ!? 

私はいきなりの急降下に、顔をひきつらせて固まっていた。

でも、これで終わりじゃなかった。

「最後は相手を投げて終わりです」

「(な、なんですとぉっ!?)」

瞬間――右手がぱっと放されて、同時に後ろの支えも失った。

「えええっっ!?(先生のウソつきっ、背中から落ちるぅっ)」

ひっくり返って尻もちついてパンツ見えちゃうっっ……と思ったら――。

「以上でした、と」

「(……へ?)」

倒れてない、転んでない、パンツも……見えてない。

先生が手を放したのは本当にほんの一瞬で、今はもう……しっかり抱きとめられていた。

「さっきは動きを分割してゆっくりやってみたのですが、どうでしたか?」

いや、どうと言われましても……。

「えーと、あれでもゆっくりなんですね」

「そうです。で、本来は技をかけられるほうにも受け方があって、投げられるときには膝を折って回転して受け身をとるという――」

「無茶言わないでください……」

こんな会話をしながら先生にふんわり抱きしめられているなんて、やっぱり不思議。

「先生」

「なんでしょう?」

「よくも手荒なまねしてくれましたね……」

抱きしめられながら、私は先生の胸に爪を立ててガリッと引っ掻く真似をした。

「おっと、引っ掻かれた。手荒ということはないでしょ」

「じゅうぶん手荒ですよ」