「まずは――手は横に気を付けの姿勢で一礼、お願いします」

「お、お願いします」

先生にならって礼儀正しく挨拶をしたら、急に緊張してきた。

落ち着き払った様子の田中先生とは反対に、私ときたら……今になってどきどきそわそわ。

「それでは早速、俺の手首を山下さんの右手で掴んでください」

先生は握手するみたいに自分の右手をひょいと私に差し出した。

筋骨隆々のマッチョな腕とは違うけど、腱が発達していて力強く引き締まったまさに男の人の腕。

その男らしい逞(たくま)しさに思わずどきりと息を呑む。

私は緊張と期待でいっぱいになりながら、おずおずと先生の手首を掴んだ。

「こう、でしょうか……?」

「そう、もっとしっかり掴んで。離さないでください、絶対に」

「はいっ」

どうしよう、先生の顔がまともに見られない。

ひとりで勝手にどきどきしている自分がなんだか恥ずかしい。

でも、だって――こんなふうに向き合って、私の手が先生の腕にしっかり触れていて、「離さないでください」なんて言われたらもう……。

先生はまったく無意識なのだろうけど、私からすれば反則技もいいところだ。

「それではいきますよ」

「えっ」

あらためて心の準備をする間も与えずに、先生は大きく一歩踏み込んできた。

かと思えば、素早く背後に回り込み、いとも容易(たやす)く私の自由を完全に奪った。

「(ええっ、なんで!?)」

後ろから回された先生の左手が、私の左の頬に触れている。

私が先生の右腕を掴んでいたはずなのに、いつの間にやらこちらが掴まれるような格好になっているし。

まるで捕らわれた人質のように拘束されて身じろぎできない。

肩を抱かれるよりもっとずっと密着していて、互いの息づかいまで聞こえそう。

「大丈夫。手荒なまねはしません」

耳元で囁かれ、心臓が苦しいくらいどきんと跳ねた。