大斗君に淡い思いを抱き始めたのは先月の末のことでした。
春が過ぎて、夏の訪れを感じるような爽やかな晴れた日でした。
私はいつも通りソラを連れて散歩に出かけ、大斗君の通う高校の前を通り過ぎて行きました。
もちろん、このときは大斗君の存在すら知りません。
この高校もただ横を通り過ぎるだけで、わざわざ金網の前から中を覗き込むような場所ではありませんでした。
高校の前の道を抜け、大通りを渡ろうとした瞬間のことでした。
この通りには横断歩道があるだけで信号が無く、交通量も多いので慎重に渡らないといけません。
その時に何を考えていたのかは自分でも覚えていません。
晩御飯のメニューでも考えていたのでしょうか。
ともかく、考え事をしながら歩いていたせいで、多くの車が行き交う道路に、左右の確認もせず足を踏み入れてしまったのです。
ソラは賢いもので、きちんと横断歩道の手前で止まっていました。
毎日私がそこで止まることを覚えていたのでしょう。