聞き覚えのある言葉に優希は幼い日を思い出す。
今度は自分の近くにいた人も離れていた人も姿をとらえることが出来た。
『――紅夜、君はこんな幼い子供の悲しみさえ忘れるなと言うのですか』
『ああ。子供でも大人でもオレがすることは変わらない』
花の近くに横になっている優希は見上げる形で二人を見ている。
『いつかその考えが新たな悲しみを生みますよ』
『人に非難されることもあるだろう。――それでも、オレ達は人の思い出を守りたいと思っている』
『やはりワタシとは意見が合わないようで残念です――』
(間違いない。北上先生が言ってた通り、私の近くにいたのは美原さんと先生だったんだ……)
優希は幼い日の夢現が現実のものだったとようやく自分の中で繋がった。
優希は自分の今の気持ちを伝えたい、そう思いながら扇子を両手で持ち力を入れる。
すると扇子は淡い光をこぼしながらサイズが大きくなっていく。
(お願い! 上手くいって……!)
雨が強くなり、髪や服が肌に張りつくのを感じながら、扇子を高く持ち上げて思い切り横へと振った。
「――――!」
全員が突然の大きな風に息を飲んだ。
扇子から発生した風は空へと向かい、厚い雨雲を遠くへと散らしていく。
やがて近くに雲は見えなくなり、輝く満月が優希達を照らし始めて。
誰もが言葉をなくしている中で優希だけは息を深く吸った。
――そして。
「私は思い出したことを後悔していません!」
紅夜と治臣に聞こえるように声を張り上げた。
「思い出した時はショックもありました。だけどお母さんは優しくて強い人だと知ることが出来て感謝しています……!」
「――あなたはそうでも他の人は違うかもしれませんよ?」
治臣の鋭い問いに優希は言葉をつまらせる。
しかし扇子をギュッとつかみながら治臣を真っ直ぐに見つめた。
「先生の言う通りかもしれません。でも、雨があがって晴れた空に虹が出るように、つらい思い出を持った人もいつか前に進めると私は信じたいです……!」