かたい声色に三人は口を閉ざしたまま、紅夜側に置かれているソファに腰を掛け。
三人が座ったのを見届けた後、紅夜は再び話し出した。
「まずはこちらの紹介をするよ。改めてオレは美原紅夜、芸能事務所で働いている」
長い黒髪を後ろで結い、同色の瞳を持つ切れ長の目が細められる。
優希が軽く頭を下げると紅夜の隣にいるスーツ姿で体格がよく、刈られている黒髪の男性が笑った。
「次は俺だな。俺は東雲薫(しののめかおる)。普段は普通の会社員だ、よろしくな!」
「僕は高校二年、高梨奏太(たかなしそうた)です。別によろしくしなくていいですよ、っ、春陽(はるひ)叩かないでよ……!」
茶色のショートヘアーにやや垂れた目を持つ彼が淡々と言うと、隣にいた少女に肩を強く叩かれて顔を歪める。
「あの、高梨先輩って相談屋の高梨先輩ですか……?」
高梨という名字に優希の学校の制服、その二つで思い当たる人達がいた。
優希の学校では、生徒の悩みを聞いてくれる双子の高梨先輩が有名だ。
彼女の問いに奏太はふーん、知ってるんだ、と素っ気なく返し、奏太の隣にいた少女が笑顔を浮かべる。
ミディアムヘアーは奏太と同じ色を持ち、やや垂れた目も彼と似ていた。
「そうそう! 私は高梨春陽、奏太くんは双子のお兄ちゃんなんだー。よろしくね!」
「私は篠崎優希です。よろしくお願いします……」
春陽の勢いにおされながらも優希は会釈する。
会釈が終わり頭を上げると再び紅夜が口を開いた。
「早速で悪いが、篠崎さんにとって思い出とはどんな物なのか聞かせてほしい」
「思い出、ですか?」
数回瞬きをして優希は聞き返す。
しかし、紅夜は頷き無言で答えを待っているだけだ。
優希は視線を湯飲みのお茶の水面へと落とし、思考をめぐらせる。
(私にとっての思い出は、やっぱりお母さんが事故に遭った雨の日……)
たくさんの人に囲まれ、呼びかけてもいつものように言葉を返してくれない母。
救急隊員に必死にすがりついたことは今でも優希の記憶に焼きついている。
優希は声が震えないように注意を払い、言葉を繋いでいく。
「私にとって思い出は、悲しくて寂しくて……、――でも温かくもあって。なくしたくないものです」