「到着!」

 繋いだ二人の手をそのままで腕を振り、春陽は地面に足をつける。
 優希は久しぶりの感覚に少しバランスを崩しながらも立つ姿勢を保った。
 奏太は春陽の手を慣れた様子で軽く振り払って辺りを見ている。
 優希とは自ら手を離し、不満の声をあげる双子の妹を適当にあしらう様子が慣れていることを示していた。
 移動前は雨が降っていなかったが、移動した仮想世界ではポツリポツリと降り始めていて奏太は眉を寄せる。

「雨足が強くならないといいんですけど。雨が強いと視界が見えにくくて矢が放ちづらい……」

「雨だと春陽も飛びづらいよー。あ! 優希ちゃんは自分が持つならどんな武器がいい?」

 いいことを思いついたと両手を合わせ、春陽が笑顔で優希に問いかける。
 キューブの武器化は話で聞いているし治臣達との遭遇で実際に目にしている。
 しかし、未だ覚醒していない優希にはピンとこなかった。

「どうでしょう……。考えたことなかったです」

「春陽は空を飛べる鳥っていいなーってよく思ってたら翼になったし、奏太くんは弓道部だからか弓矢になったんだよ!」

 だから、好きな物とかを強く念じたら叶うかも! と明るく話す春陽を見ながら優希は考える。

「そうですね……。あえて言うなら雨を吹き飛ばせる武器がいいです」

「雨を吹き飛ばすとなると難しいですね……」

「でもそれって素敵! 雨があがれば虹が出るよ!」

 春陽の言葉に優希は想像する。
 雨あがりの空に架かる虹を。

(うん、やっぱり雨を吹き飛ばせるような武器がいいな。悲しみの後に明日を迎えられる元気が少しでも出るように――)

 そう思った所で、春陽達の思い出を見たことに対して謝れていないことに優希は気づく。
 春陽に声をかけようとすると奏太に名を呼ばれて遮られた。
 優希が奏太に視線を向けると奏太は優希を真っ直ぐ見つめ、それから背中を見せる。

「――僕達の思い出を見たことなら謝らないで下さい。篠崎さんは見ようと思って見たわけではないですよね?」

「え……」