優希は知りたかった。
現在治臣の力が不完全な形でかかっているのなら、もしも完全にかかっていたら母の事故のことはきっと忘れていただろうと予想出来るから。
紅夜は視線をテーブルに落とし、テーブルの上で両手に拳を作る。
拳は小刻みに揺れ、紅夜の心が揺れていることを示した。
「治臣から聞いたのか……。薄々はあの時の子かと思い始めていたが本当にすまない……っ。オレの力がいたらなかったばかりに中途半端にしてしまって。――それに、もっと早くに十年前の子だと気づければ、君を活動に巻きこんで困らせる結果にならずにすんだのかもしれない。本当に情けない……!」
「――そんなふうに言わないで下さい」
優希は震えている紅夜の片方の拳をそっと両手で触れた。
母の事故死は確かに優希にとって衝撃的な出来事。
しかし、紅夜達が言ったように思い出を忘れることで母への思いが薄れ行くのは寂しいから。
「私はお母さんのことを覚えていられて嬉しいです。――もしも、忘れているのが悲しい思い出なら思い出さないとどう思うかは分かりません。でも、母に繋がることなら思い出したいとは思っています」
「篠崎さん……」
「――だから、美原さんは情けなくなんかありません……!」
励ますべく出来る限りの笑みを浮かべる少女に、男性もまた笑顔になった。
「ありがとう」
目の前の存在が優しくて温かくて。
幼なじみと似ているけれど確かに違う年の離れた少女に紅夜は感謝するのだった。