店を回った優希の手には音楽情報雑誌が一冊。
時々買っているその雑誌を本屋でパラパラと立ち読みしていると、ある女性の姿に目が留まり思わず購入したのだ。
(凜子さんがモデルをしてて歌手デビューも決まってるすごい人なんて知らなかった)
優希は店が並ぶ道の端の方で立ち止まり、見たページを思い出す。
ページ内で紹介されている、綺麗な衣装に身を包んでポーズをとっているジャケットは目を惹く物だった。
インタビューものっていて、曲のテーマは「許されない想い」と書かれている。
作詞は本人による物で、特にサビに力を入れたと書かれていた。
優希は発売したら買おうかな、と密かに思いながら止めていた足を動かし始める。
「――あ……」
コンビニ前でドアが開き、中から出て来た人物に思わず声をもらす。
コンビニの袋を持った相手もまた優希を見て目を丸くした。
相手は左右に視線をさまよわせた後に再び優希に目線を合わせ、眉を下げた状態で笑みを見せた。
「――数日ぶりだね、篠崎さん」
優希にとってだいぶ見慣れたスーツ姿の紅夜だった。
「お久しぶりです、というのも何だか変ですね……」
「確かにそうだ。――急で悪いけど、この後時間あるかな? よかったら少し話がしたいんだ」
真っ直ぐな視線を受けた優希ははい、と頷く。
ねずみ色の空は、静かに泣き始めていった。
優希はMemories Defense Forceの話を聞いた時と同じ寮の一室へと通される。
最初に話を聞いた時とは違い、面識があるので優希は幾分気を楽にしてソファに腰かけた。
逆に紅夜は居心地が悪そうな様子で座り、テーブルに荷物を置いた後は言葉を発さずにいる。
無言の空間が苦しくなった優希は声をかけようと口を開いた。
「――あの、美原さん達にご迷惑をかけてすみませんでした」
「――……いや、オレのほうこそ力になれなくてすまない……」
顔を横に緩く振った紅夜が言葉を返す。
その答えに優希もまたいいえ、と否定の言葉を返す。
「仮想世界で何も出来ない私を守ってくれました。――十年前に会っていることを北上先生から聞きました。母の事故を覚えているのも美原さんのおかげなんですよね……?」