「来てくれて感謝するよ」
紅夜と出会った後の土曜日、優希は紅夜が勤める芸能事務所を訪れ、次いで事務所近くの寮の一室へと案内された。
物珍しげに辺りを見る優希は、ここならゆっくり話せるけど他の人もいて君は安心だろうと言われ、目を丸くしてしまう。
話が出来、なおかつ出会って間もない男と建物の中に二人という状況を避けた紅夜なりの気遣いだった。
何故二人が再び顔を合わせたかというと、雨の日に彼女は彼との別れ際、美原紅夜(みはらこうや)と書かれた名刺を受け取っており、出会いをないものとして扱うことが出来なかったからだ。
切れ長の目に見られながらソファへの着席を促され、優希は静かに座る。
「あの、話とはどういったお話ですか?」
優希の後にテーブルの向かいのソファに腰を下ろす紅夜に顔を向けて口を開く。
話を聞いてほしいと頼まれたが、内容については一切知らされていない。
(私の力について聞かれたらどうしよう……)
小柄な体が強張る。
優希の様子に紅夜は眉を下げ、彼女へと真っ直ぐ目線を向けた。
「まずは力を抜いてほしいんだ。オレは君の能力について無理に聞き出そうとは思っていない」
「え……」
「今日来てもらったのは、オレ達の活動について話を聞いてもらいたかったからなんだ」
(美原さん達の活動? 仕事じゃなくて?)
優希が話の意図をつかめず首を傾げていると、後ろにある扉が音をたてて開かれた。
「お、この間の子だな!」
「どこが素質あるんですか? 見た目普通じゃないですか」
「奏太(そうた)くん失礼だよ! ごめんね?」
「え……、あの……っ」
振り返った優希にそれぞれが話し出し彼女は戸惑った。
それを遮るように紅夜はテーブルの上を軽く手のひらで叩く。
紅夜の苛立ちを感じた三人は口を閉じる。
「まったく困らせるんじゃない。ふざけるために呼んだ訳じゃないのは分かってるだろ?」