そこで言葉を切った治臣は両手でハンドルを強く握る。
 出来た拳がうつむいて拳を握っていた映像と重なった。

「悲しい思い出や辛い思い出を抱えた人が耐えきれずに自ら命を絶つ。そんな痛ましいことが少なからずあるのです。ワタシは一人でも多くの命を救いたくて医者になりました。例えその人の人生を変えようともワタシは命を救いたい、そう思っています」

 治臣の思いの強さに優希は言葉を失った。
 治臣が紅夜達の行動が残酷だと言った意味も、紅夜達が思い出を忘れることでその人の人生が変わってしまうから防ぎたいという思いもどちらも間違ってはいない。
 だからこそ、優希はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
 戸惑う優希を見た治臣は、小さく息を吐いた後に笑みをこぼす。

「困らせてしまってすみません。もう一つ聞きたいことがあるのでは?」

 促してくれる彼に感謝しつつも優希は非常に言いづらい。
 思い出を忘れることをすすめている相手に、思い出にかけられているだろうロックキューブの力の解き方を聞こうとしているのだから。

「あの……」

 言葉にならない声を何度か出してなお迷う様子に、治臣は手首につけられたチェーンにあるロックキューブを優希に見せる。
 メモリーズキューブとは違い、鍵のように綺麗な銀色の輝きを放っている。

「あなたが聞きたいのは、かけられたロックキューブの力の解除方法ではないですか?」

「!」

「反応を見るにそのようですね」

「逆だとは思いませんか……?」

 聞き返せば目を細め鋭い視線で見た後に目を閉じ、思いません、と言い切った。

「忘れたくてワタシを訪ねて来たのなら、そんなに真っ直ぐで強い目はしていないはずです。今まで見て来た対象者の多くには目などに影を感じて来ました。――あなたは悲しみに揺れこそすれ、澄んだ瞳です」

「――美原さん達にはメモリーズキューブではロックキューブの思い出を封じている力を破れないと言われました……。だから、北上先生が知っているなら教えて下さい……っ!」