車窓越しに流れる景色は優希にとって見慣れている所ばかりに変わって行く。
 それを過ぎると朧気な記憶と鮮明な記憶が混ざり合い、優希は前方を向いている治臣の横顔を見つめた。
 治臣は視線を感じながらも反応を返すことはせず、一つの花畑の近くで車の速度を落とす。

(どうして北上先生がこの場所を知ってるの……?)

 そこは優希にとって母との思い出がある花畑で、それを知っているのは父や幼い頃から知り合いの近所の人だけのはず。
 しかし、優希を乗せてこの場所に止まったということは、少なくとも治臣が何かを知っているのだろうと優希にも分かった。
 驚く優希を尻目に治臣は道路の端に車を寄せて停止した。

「――さあ、着きました。あなたはこの花畑をご存知ですね?」

 確かめるように言葉に力を入れる治臣に頷いて返す。
 すると彼は満足そうな表情で窓から見える花畑を見つめた。

「それではもう一つ」

 花畑から優希へと顔を向ける治臣の真っ直ぐな瞳が紅夜とよく似ていると思った。
 時々見せる暗い瞳には背筋が冷えるが、それ以外の相手を見る瞳は真っ直ぐで迷いがないように感じられる。
 優希は紅夜達から色々と教わって来ているが、彼ら曰わくMemories Defense ForceとMemories Lock Forceは長年対立していることもあり、互いのキューブの能力の違い等は粗方知っているらしく。
 見習いの優希が話して困るようなことはなかった。
 優希は自分の質問への答えがほしいため、かわりに何でも答えなければと強く意識する。

「はい。私が話せることは話します」

「それでは単刀直入に聞きます。――十年前、この場所でワタシはあなたと会っています。そのことを覚えていますか?」

「十年前、ですか……?」

「ええ」

 優希はよく見る夢の内容を思い浮かべた。
 思い当たる曖昧な記憶に残っている手がかりは二人のうち一人だけ。

(北上先生が髪の長い男の人……? でも雰囲気が違うような……)

「何か思い当たりますか?」

「――あの、夢なのか現実なのかは分かりませんけど、十年前の夜、ここで二人の人を見たというのは記憶に残っています」