「え……?」
自分に聞きたいことがあると言われるなど思いもしない優希は首を傾げる。
治臣は優希の問いかけに答えることなく背を向けた。
「そう遠くない所にあなたと行きたい場所があります。そこで話を聞きましょう」
仕事は、と呼び止める声に出口へと歩きながら口を開く。
「日勤の先生の急な都合で退勤時刻が少し遅くなりますが夜勤明けなんです。もう少しで引き継ぎをして退勤しますからここで待っていて下さい」
そう言って治臣は室内から去って行った。
――それから支払いを済ませて薬を受け取り、優希は治臣が運転する車に乗せられている。
父親以外の男性と車で二人きりという状況が初めての優希は落ち着かない気持ちになる。
それどころか今更ながら敵対関係にある相手と車内に二人きりなことに危機感を持ちつつあった。
対して治臣はハンドルを動かしながら、助手席に座ってそわそわしている優希を横目で見て警戒する子猫のようだと目を細めた。