笑みを消し、真っ直ぐな眼差しで紅夜を見据える。
 紅夜は治臣のそんな真剣な様子が好意的であり今は苦手でもあった。
 敵として向き合う彼は時として自分を揺さぶって来るのだ。
 治臣は紅夜に隠れている優希の方を見た後に再度紅夜を見てまた口を開く。

「後ろの彼女、千夏(ちなつ)に似ているようですね?」

「――!」

 大きな体を強ばらせる様子を治臣は見逃さない。

「そちらに引き入れる理由がそうなら、ワタシは許しませんよ」

 目を細めて声のトーンを低くして言われた言葉に紅夜が目を見開く。
 それから治臣は背を向けて、再度見ることなく凜子と冬馬と共に仮想世界を去って行った。

 ――治臣達が去った後、二人の所に薫達が集まって互いの無事を確認し合う。
 多少のダメージを受けたであろう薫と春陽はキューブによって回復しており、時間を待たずに現実へと戻れそうだ。
 春陽と手を繋いで帰還する間も、優希は治臣の口から出た千夏と言う名前が頭から離れることはなかった――……。





(どうすればいいの……?)

 現実へと帰り、帰宅した優希は自室のベッドの上で考えこんでいた。
 思い出を封じられている可能性が高い以上、一旦見習い活動を休んだほうがいいと紅夜により判断が下されたのだ。
 ロックキューブはメモリーズキューブの思い出を守っている力を破れるが、メモリーズキューブはロックキューブの思い出を封じている力を破ることが出来ない。
 そのため、優希の思い出にロックキューブの力がかかっているのなら、紅夜達にはどうすることも出来ないと言われてしまった。
 ――考えこんでいた優希は一つの仮説を思いつく。
 封じる側のロックキューブなら封じた力を取り除くことが出来るのではないかと。

(どうにかして聞いてみないと……!)

 そう決意して、優希は夜更けにやっと目を閉じるのだった。