『父さん!』

 二人と父親には距離ができ、大きな音に邪魔されて声がかき消される。
 しかし、少年の呼びかけに気づいたかのように、子供へと顔だけ振り返った男性は口を動かした。

『――――――』

 そして、二人が目を見開くその前で、列車の前に飛び出した――……。





「――う、そ……」

 映像が終わり意識が戻ってきた優希は思わず口元に震える手をあてた。

(春陽先輩達のお母さんが亡くなって、お父さんは自殺を……? でも、最後は愛してるよって言ってるように見えた……!)

 優希はこみ上げる涙を必死に拭う。

「可哀相に」

 その様子を見た治臣は少し考える素振りを見せた後、哀れむように優しい声色を作る。

「双子の過去でも見えたのでしょう……?」

「――!」

(何で分かるの……!)

「怖い顔をしないで下さい。稀にいらっしゃるのですよ、そのような力を持つ方が――」

 治臣の言葉の最中に彼の顔のすぐそばを一本の矢が通って行く。

「――黙って聞いてりゃうるさいんだよ」

 突然の事に皆が言葉を失っていると一人だけ話す者がいた。
 弓矢を射る構えをとったまま、奏太が笑顔を浮かべている。

「僕らの過去が知られることなんて想定済みだし、見習いのことを勝手に哀れみやがってすげームカつくんだよ」

(先輩の口調が変わってる……!)

 奏太の豹変ぶりに紅夜、薫、春陽は思わず息を吐いて笑う。


「治臣、お前は自分の首を絞めることになった。――キレた奏太は容赦がない」

 今も弓矢を構えており、何時でも矢を射そうな奏太にさすがに治臣は焦りの表情を見せる。
 しかし、すぐに取り繕うように余裕の表情を作った。

「いいでしょう。結界にいる女性を救うのがどちらか勝負しましょう」

「――いいだろう」

 紅夜と治臣の視線がぶつかり、二人は同時に地を蹴った。