――黒い服に身を包んだ小学生位の男子と女子が一人ずつ部屋の一室にいる。
 部屋の奥には棺が置かれ、棺の窓からは女性の動かぬ寝顔が窺えた。

『なんでお母さん寝てるの……?』

 女の子が棺に近づき寝顔を見て、後ろをついて来た男の子に問いかける。
 男の子は首を横に振り、潤む瞳で女の子を見つめる。

『寝てるんじゃないよ、死んでるんだ……っ』

 小さな体を震わせ、声を押し殺しながら大粒の涙をこぼす男の子。
 伝染するように女の子も声をあげて泣き出した。
 二人の声を聞きつけて部屋の戸を開けた大人が痛ましそうに見ているのを優希が認識したところで場面は切り替わる。

(え……踏み切りの前……?)

 自分達が今いるように、映像の景色が踏み切りの前へと変わる。
 遮断機が作動し、音が鳴り響いて列車が接近しているのが分かる。
 先ほどの二人が雨に濡れながら前に立っている男性に呼びかけていた。

『お父さん帰ろうよ!』

 女の子が雨音に負けぬよう声を張り上げるも父親は振り返る素振りを見せない。

『お父さん! お父さん!』

 なおも呼びかけ、少女は駆け寄って父親の腕をつかむ。
 腕を引かれてようやく振り向いた男性は、頬をやつれさせ、目の下には隈を作り笑みを無理に浮かべて少女の頭を二、三度撫でた。

『――ごめんな春陽。父さんもう疲れたんだ……』

『お父さん……?』

 首を傾げる少女が腕をつかんでいた手を父はそっと外し、後ろで様子を見ていた少年へと視線を向けた。

『奏太、春陽と仲良く生きるんだぞ』

『父さん……?』

 少年は父親の異変を感じ、二人に近づいていく。
 父の言葉は止まらない。

『ごめんな二人とも。父さんは母さんがいなきゃだめなんだ……。あんなに体中を刺されて、あんなに血だらけで痛かっただろうに……』

 男性は段々小声になりながら前へと歩いて行く。
 追いつき再度つかんだ少女の手を今度は強く振り払った。

『春陽……!』

 少年が慌てて地面に転んだ少女に駆け寄る。
 血が出ていないかと確認して前を見ると、父親は遮断機の向こう側に立っていた。