(今夜もあの夢を見るのかな……)

 帰路の途中で南に手を振り、優希は一人で住宅街を歩いていた。
 雨は未だ止まず己を主張し、人通りは少ない。

(お母さんが事故に遭った日のことを夢に見ると、次の日はいつもあの夢を見るんだよね)

 十年前、幼かった優希にとっては現実か夢か分からない出来事。
 家から近い、母とよく出かけていた花畑の側で泣き疲れて眠ってしまった際、声が聞こえてまぶたを開けると二つの人影が見えて。

(一人は遠くて分からないけど、近くにいた一人は何となく覚えてる。長い髪だけど声は低かった……)

 ――ゆっくりお休みと囁くように言われ、大きな手で視界がふさがれたところで夢は終わる。

(花畑にいたはずなのに目が覚めたらちゃんと家にいたんだよね。お父さんにすごく心配されたな……)

 考えながら前を見ていると数人の姿が見え、優希は道の端へと避ける。
 すれ違う瞬間、スーツを着た髪の長い男性と目が合った。

「――え……」

 目が合い声を出したのは優希か相手か。
 優希の脳裏に映像が浮かび上がり歩みを止めた。

(あ……っ)

 目の前の姿と浮かび上がった映像の人物が重なって行く。
 映像の中の男性は笑顔で幾分幼い顔つきをしており、髪は耳にかかるほどの長さだった。

(女の子が一人ともう一人の男の子がいて……あ……!)

 三人が制服を着ていると認識した途端に映像が切り替わる。
 次の映像に少女はおらず、同じ制服姿の少年が向き合っていた。

『お前はそれでいいのか?』

 先ほどの映像よりも髪が伸びた少年が厳しい顔つきで言うと相手は顔をそらし、地面を見つめながら両手を体の横で握りしめていた。
 外にいるのだろうか、二人の髪が不規則に揺れているのが分かる。

『君こそ後悔するなよ――紅夜(こうや)』

 お互いが背を向けた所で映像は終わった。

「紅夜、さん……? あ、――……っ!」