「マスター、いつもの頂戴。」

「マスター、俺、今日は元気になれるヤツ欲しいや。」

「どうした、今日なにか嫌なことかなんかあったのか?」

「別にそういうわけじゃないけど。」


BARにはいろいろな人が来る。
今みたいに常連さんだったり、

「アカネちゃん、今日は何時から?」

「早く歌ってくんねえかなあー??」

なんて、緋音目当ての人もいる。
一番厄介なのは、、

「サクさーんッ///」

「ショウさん来たよ来たよッ///」

この、朔と勝のファンたち。

なぜ、厄介なのか…。

それは、この女たちが女子高生だからだ。




え?

とおもうかとしれないけど、
ここには緋音がいる。
もし、緋音が同じ学校の人達にここで歌っているだなんてバレたらややこしいことになる。
だから、高校生がいれるのは19:30までと決まっている。








20:00。


薄いピンクのシフォンワンピースを着て、髪の毛を上に一つにまとめてでてきた緋音は、とても高校生とは見えない大人っぽさが漂っていた。


「おお!きれいだな!!」

口々に男たちはいう。
もちろん、その男たちの中に勝も入っていた。


ジャズに合わせて歌う。
おしゃれだ。
男たちが緋音の綺麗な声を聞いて、気持ちよさそうに酒を飲む。
男たちはかわいいかわいいと、緋音をみながらいう。
よってる勢いでプレゼントなんて買ってきてくれるくらいだ。
でも、今日は一人だけ違う男がいた。


その男は、スタイルがよく小顔につりあわないサングラスをかけていて、誰かと待ち合わせしているようで、とりあえずマティーニを頼んでいた。
こんな男を警戒せずにはいられない朔とは逆に全く警戒せずにとにかくはじけている勝。
緋音もまた、そんな男などしらないといわんばかりに歌いまくっている。



緋音が5曲目を歌い終わったとき、二人の男が入ってきた。
もちろん、そいつらもやはりスタイルがよく、小顔にでかいサングラスをかけていた。


「おい、あんちゃん。」

「はい?」

朔に話しかけてきた男はおそらく筋肉であろう、細いが、がっしりとしていた。

「キリタニってやつ、きてねえか?」

「キリタニ…様ですか?多分…」

朔はいいながら、さっきマティーニを頼んでいた、この男に似ている人の方を見ながら、

「あちらでは?」

「おお、いたいた。ここのBARは人気だからどこにいるのかわかんなかったよ。ありがとな」

男から肩を叩かれたあと、朔は肩を確認した。
盗聴器、発信機などをつけられていないかだ。


「キリタニ、またせたな。」

「またせすぎた。例のアレ、もってきたか?」

「もちろんだ」

朔は気づかれないように聞いていた。
さっき肩を叩いた男が、もう一人の立っている男に黒いカバンを渡させた。
キリタニとよばれる男が中身を確認して、うなずいた。

「よし。一杯ずつおごってやる。おい、」

「はい!なんにいたしますか?」

朔はきいた。

「バーボンをロックで3つ。」

「はい」

急いでバーボン3つを持っていった。
が、朔が転んだ。


ばしゃん!!


「す、すいません!!」

「てめえ、なにしやがるんだ?!あ?!」

キリタニと喋っていた男が朔に対してきれてきた。

周りにいた客たちはこんなことは聞こえてなく、緋音の歌に夢中だった。

「すいません!スーツ、弁償致します!」

朔が必死に謝ったが、がっしりとした男は話を聞かずにふざけるな!といってきた。
しかし、当のバーボンがかかった男、キリタニは、

「そんな怒るな。いい、大丈夫だ。そんなに謝らなくていい。」

優しく朔に言った。

「しかし、お客様…ズボンだけでもこちらのズボンをお使いください…」

そう言って、勝がちょうど走りながら持ってきた黒いスーツのズボンを渡した。

「じゃあ、もらうよ。あ、あとバーボンもういいや。こいつも帰らせるから安心しな。じゃあな。おい、ジンカワ、帰るぞ」

ジンカワという男は、さっきの男だ。
ジンカワはキリタニの言葉でおう、といってでていった。

「おい、朔!!おまえ、めっちゃこわかっただろ!!いやいやいやー、それにしてもお前も転ぶことってあるんだな!!ププッ」

わざとらしく、勝が笑って朔をバカにした。

このあとまた喧嘩するのだろうと周りは思っていたが朔は意外なことに怒らなかった。
むしろどこか落ち着いていて、勝を見る目も優しげだった。

「わざとだよ」

そう、ポツリと言った朔に対して勝は嘘だろとかいいながら笑っていたが、いたって真剣な表情の朔を見るとあながち嘘ではないというのが、勝でも感じ取られた。

「勝、今日は部屋、早めに来い。あと…」

「ん?」

「凛子さんも連れてこいよ」

そう言うと、朔は頭を少しかきながらお疲れ様、とみんなに言って2階へ上がって行った。