寒い風が空家の窓の隙間からふいてくる。
いくらか勢力は弱まっていても冬に風一つでもふいてこれば寒いものは寒い。
外にある大きな看板にはまだ塗り立てで乾ききっていないペンキでシンプルに
『BAR.7』
とだけかいてあった。
ガターーーーン!!!
「ったたたた…もう!!なんなの、このボロい家!!!だからせまくてもいいから丈夫な方がいいって言ったのに!!」
猫が通るだけでもギシギシと音が鳴る古い床に落ちた茶髪のボブのうるさい女、八神緋音 (やがみあかね)。
非常に明るく、だれにでも平等かつフレンドリーな性格で身長も低く顔もかわいいといいとこだらけだが、実はうるさいとこや極真空手道大会で優勝するくらいの人だからもちろんモテない。
本人曰く、男に興味がないといいつつも毎回猫をかぶりいろんな男と仲良くなろうとするが1日でおわるのがオチ。
「誰か助けなさいよー!!!」
うるさい…と誰もがいいそうになったその時、
「あーかーねーつぁーん♡」
一人の男だけは違った。
こいつ、小暮勝(こぐれしょう)は緋音がかなりすきで、いつもいつも緋音にまとわりつく。毎日のように告白するが緋音は毎回決まって「むり、きもい」とかいろんな言葉で振りまくっている。
勝はだまっていればかっこいいと誰もがいうほどの人。だって本当にイケメンでモテてるのが事実だから。
口を開けば緋音のことばかりなもんだからほかの女子からしたら緋音が羨ましく、いじめたくなるのだろう。
「今俺が助け…ゔわあ!!!」
バターーーーン!?!?
「いってえ…」
「もう!!!なんで勝が落ちてくるわけー?!頼りなさすぎなの!!!もー、だれでもいいから早く助けてー!!!」
二人のピーチクパーチクうるさい声が聞こえたのか一人の女性が荒々しくボロボロなドアを壊すように勢いよく入ってきた。
「うるさいわよ、あんたたち!!!私たちがせっかくこの寒いなかボロボロすぎる空家をマスターと一緒に直してるっていうのに!!!」
「げ…凛子さん…」
その凛子さんと呼ばれた女性、日向凛子(ひなたりんこ)は黒い髪の毛を1つにし、ゴージャスな服を見にまとった気の強い女性。独身でいつもいつもお見合い写真をながめている。
「てか、あんたたち落ちたの?!もう…マスター!!!たすけてあげて。」
凛子さんの大きな声が聞こえたのか黒いスーツを着た白髪まじりの紳士らしき男が入ってきた。
その男こそBAR.7のマスターの辻慎一郎だ。
「お前ら…朝早くからうるせえよ。」
「「ごめんなさい…」」
「いいから助けてよー!!マスターはーやーくー!!」
「おら、このロープに捕まれ」
こんな会話、普通の家からは絶対しない。…といっても普通の家ではないが…
まあ、そんなこんなでなんとか二人を助け出したマスター。
俺は結局一歩も動かなかったわけで、そんな俺とマスターは目が合った。
「とんだボロい家を買ったもんだな、朔。」
「だからいいんすよ」
とりあえずこれだけ言っておこうとでもおもったのだろうか。
朔…
神楽朔(かぐらさく)がこのBAR.7の裏の顔のリーダーだ。そして、勝と凛子と刑事としても働いている。
長身で髪は短く、頑固な奴だがやはり顔はイケメン。しかし、合コンなんてのは行ったことはなく、いつもいつもBAR.7の裏の顔として働いている。
「ほんとだよ、なんでこんなおんぼろ空家なんて買ったのよー。おかげで落ちちゃったじゃんー」
緋音も一緒に言ってきた。
「てか、朔、助けろよ!!一歩も動かなかったの、俺知ってるんだからなー!!」
「え?!朔…お前、こーんなかわいいかわいい妹を見殺しにしてたってわけー?!腹立つ!!」
緋音と朔は血の繋がっていない兄妹だ。
3年前、緋音の父親と朔の母親が再婚した。だがその1年後、二人は死んだ。
交通事故だった。
「うるさい、はやく高校いけ。」
「えー、やだよ、ここにいる!!」
「ここにいてなんになる。お前はさっさと記憶を取り戻すためにも学校とかいったほうがいいんだ!!」
緋音は過去の記憶がない。
記憶喪失だ。
朔の所属する特別刑事課に緋音は連れてこられた。
警察の前で倒れた緋音を警備員達がとりあえず特別刑事課に連れてきたのだ。
もちろん、緋音は朔の血の繋がってはいないものの、妹だったから特別刑事課に連れてきたのだろうとも思う。
「…じゃあ、朔送ってよ!!あと、仕事もまた手伝うから!!…ね?」
「あかねちゃん!!俺が連れてってあげよっ…った!!」
素早く拳が勝に当たった。
「勝にたのんでないの。ねえー、朔ー…お ね が い !!」
緋音は朔と父親と朔の母親だけをおぼえていた。しかし、父親が離婚する前の記憶を全てなくしていた。
「あー!!お前はさっさと歩いて学校にいけ!!目ざわりだ!!」
「ひどい!!!さいってー、朔は人の心ってのがないわけ?!もー、イライラする!!!いってきます!!」
「あ、あかね…ちゃん…」
勝はまた振られた。
そして、緋音も学校に行った…と思ったのもつかの間だった。
勢いよくおんぼろなドアを開けて慌ただしく緋音は帰ってきた。
「あれ?!緋音ちゃん?!」
「なんだよ、またボロクソいわれに来たのか?」
こんなことも朔は言ってみたが緋音はその言葉を無視して早口で言ってきた。
「ちがうの!!!人が死んでるの!!!」
どのくらいたっただろうか。
緋音の言葉に対して誰も頭が整理できていなかった。
引っ越してきて、新しく経営しようとしている矢先に人が死んでるだなんてタチが悪すぎる。
だが、緋音の必死な顔にみんなは急いで外へ出た。