考えが甘いんだよ【短編】





「巧弥くんーっ、帰ろぉ?」






「拓弥くんは私と遊ぶんでしょ?」








「た、拓弥くん!職員室来なさい!」








あーあ、また先越されちゃったなぁ









「しゃーねーなぁ。みんなで遊ぼ?」







何…それ。

私達、付き合ってるんだよね?



たまらず、私も声をかける。








「巧弥くん、あのっ、私と帰りませんか?」






「はぁ?無理」








巧弥くん、それ…


昨日とおんなじセリフです。









「ちょ、可哀想ぉー。なっちゃん、どんまぁい♪」







「ははっ、また…ふられちゃったー」









いつも同じようなセリフ。
可哀想?勝手に憐れまないで。

なんて、心の声は浮気相手さんには届くわけもなく勝ち誇ったように笑う彼女。









「ちょっと!何その態度!菜津美に謝んなさいよ!」







いつもそうやって私を守ってくれる。

私の親友の木崎詩穂ちゃん。







「ごめんねぇ、なっちゃん!浮気相手にこんなこと言われたくないよねぇ〜??じゃあねー!私これから巧弥くんと約束があるんだぁ~」





やっぱり彼女のことは好きになれない。
ごめんね、亜耶ちゃん。








「いいよ、亜耶ちゃん。また明日ね〜」









「ちょっと、菜津美!!怒るよ!?なんであんなこと言われて怒らないの!もっと怒りなさいよ!!」









怒りなさいよ!って怒られるのって私ぐらいだと思う。

ほんと、この言いたいこと言えない性格なおしたい。






「ごめん、しーちゃん。いつも私のことばっか考えてくれてありがとう!しーちゃん大好き!」







「もーっ、菜津美ー?あんた可愛すぎ!!てかあんな巧弥とかいう馬鹿にはもったいないわ!別れな!別れな!!」







「そうする〜。別れてしーちゃんと付き合う~!!」








「こらっ、誤解を招くわよーっ!!」








と言ってしーちゃんが見たのはしーちゃんの彼氏の神崎くん。

優しくて、かっこよくて、頭も良くて、意外と運動もできるんだって。






同じクラスになったけどまだ話したことないなぁ。
だって、私は人見知りだから。





あー、もう私いいとこ一つもないなぁ。

しーちゃんみたいに明るくて、笑顔が似合ってみんなのリーダーみたいで、思ったことはっきり言える、優しい子になりたいなぁ。









「詩穂、帰るぞー?」







「あ、うんっ!じゃーね、菜津美!!元気だしなね?いつでも相談してよ??」








「ありがと、しーちゃん!また明日!!」








はーあっ、私も帰ろっかな?








「あ、なっちゃんー!帰りましょっ」







この子は私の幼なじみでしーちゃんと同じくらい大切な友達の杉沢夏菜(かな)ちゃん。







「かなちゃーん!!帰ろっ!!」








かなちゃんは足が速いのに部活には入っていない。
活発でかっこよくて優しくて可愛いとこもある。






かなちゃんとしーちゃんはどこか似ている。
羨ましいな、本当に。








「なっちゃん、さっき上野が4、5人で帰ってたよ?女と。いーの?なっちゃんは」







「ははっ、いーの、いーの。いつものことだし。」








「マジ、ムカつくね。上野って。大丈夫?なっちゃん。辛くなったらいーなね?」







いつだって2人は私の支えてくれる。
守ってくれる。


大好きだよ、本当に。








「ありがとう、かなちゃん!かなちゃんとお話してたら元気出てきたよっ」








「もぉ、なっちゃんは可愛すぎる!!あーーー可愛い!本当、私の天使だよ〜」








ぎゅっとしてくれるかなちゃん。




かなちゃんのほうが何十倍も可愛いのに。
鈍感さんだなぁ









「あ、家着いたね!また明日!バイバイ」









「うん!話し聞いてくれてありがとう!かなちゃんまたね!!」







「はいよー!」










家に帰ってベッドにもふっと倒れる。
今日も疲れたな。
どれだけこんな日々が続くのかな。
私、もつかな?



高校はあと2年間もあるというのに。







優しくされたことなんて一度もない。
いつだって君は私に冷たかった。
告白されたとき、すっごく嬉しかったの。
君に嫌われてるんじゃないかって思ってたから。
でも付き合っても冷たいのは変わらなくて。
最初は戸惑ったっけ?





よく一年間も頑張ってるなぁ、私。
うん、そこは褒めてもいいよね私。




まぁまだ完璧に1年とはいえないけど。









「巧弥くんは私のことどう思ってるのかなぁ?」






私はやっぱり考えが甘い。





もしかしたら恥ずかしがってるだけなんじゃないかって。
別れないってことは私のこと好きなんじゃないかって。





そんなこと、ありえなかったのにね?






その事件は付き合って一年間を目前としたある日の放課後だった。






「巧弥くんかーえーろぉ?」








「ずるいぃ〜!私も私もぉ♪」









「いーよ、帰ろーぜ!」








「「やったぁ!」」









「巧弥くんっ、私とも帰らな「帰らない」







やっぱ、そうだよね…








「はぁ?うざっ、上野うざ。なんなの?菜津美と付き合ってんじゃないの?それなのになんで?」








「うるせーし。くちだすな「嫌よ。好きなんでしょ?菜津美のこと。ならもっと大事にしなさ「は?好きじゃねーし。そんな、なよなよした女。」







「ひどぉっ、巧弥くん。そんなこと言っちゃダメだよ?」








「うっさい、早く帰ろうぜ。」









心のどっかで期待してた自分が恥ずかしい。
馬鹿みたい。
好きになってくれるはずなかったのに。








「菜津美…。ねぇ、もう別れなよ?もう見てられないよ。辛そうな菜津美。」









「しーちゃっ。…うっく。ひっく。…っうーー。」







ポロポロ涙を流す私にしーちゃんは優しく肩に手をおいて人気のない教室に入る。








「これまでずっと我慢してたんだね、菜津美。辛いのに、笑顔で過ごす菜津美を尊敬してたんだよ?だから私は見てみぬふりしてた。菜津美が選んだ道ならそれでいいのかなって。だけど、もう見てられない。菜津美、別れなよ。」








「ぅうっ。しーちゃんっ、別れたほうがいいのかなぁっ。ひっく。」









「いいよ。そのほうが幸せになれる。」








「でもっ、でもぉっ、だっ、大好きなんだもんーっ。辛いよしーちゃん。でもっ、ひっく。巧弥くんをなくすほうが、辛い…」









「菜津美!!幸せになってよ。お願い。別れてよ。なんで辛い道を選ぶの?なんで幸せになろうとしないの?ねぇ、菜津美。菜津美は逃げてるよ!きちんと上野と向きあいなよ!真っ正面からぶつかりなよ!言いたいことちゃんと伝えなよ!」









「しぃぢゃんっ、うっく。ごめっ、ありがどう。ひっく。私、向き合う。もう逃げないから。」







いっぱい泣いたら目が真っ赤になって腫れたけど。
でもすっきりした。








やっぱりこのままずるずると引きづるのはよくない。





「なっちゃんー!帰ろっ、えっ!?なっちゃん!?どした!?なにがあった!!?」








やっぱりかなちゃんは心配してくれた。
優しい2人の親友がいて私は幸せ者だね。






そして、しーちゃんから全てを聞いたかなちゃんが一言。







「上野に言ってやんな。自分の言いたいこと全部。」









「うん!が、頑張るね!」









「「頑張れ!!」」








ハモった…




「ふふっ、私ね、2人がいてくれてよかったって心から思う。」









「菜津美…「「可愛すぎ!!」」








「うわぁっ、2人のほうが可愛いよ?」







抱きついてきた2人。







ありがとう。2人とも。

私は明日、これまでの色々をぶつけてきますっ!










「や、や、やっぱっ、無理!!!!」








「菜津美!ダメでしょう!?」








「そうだよ、なっちゃんがんば「拓弥くぅんっ!帰ろぉっ?」







「私ともぉっ」








「はいはい、2人とも帰ろうぜ。」







「待って!た、巧弥くん。お話があります!」








「は?何?ここでいい?」









「いや、それはちょっと…」








「はぁ?面倒くさ。待っててな。2人とも!」








面倒くさ…かぁ。



めげるな私!!








というわけで人気のない階段に来た私達。









「で?」








「えっと、あの、なんで私と付き合ってるのかなって、思って…」








「は!?それはその、あれだ。一途だってことを他の女子にアピールしたいからに決まってんじゃん。」








「え…。」









「話それだけ?」








「いや、まだあるの。ねぇ、巧弥くん。」









「だから何?」







「別れよう?」







えっ!?



「…はぁ!?」







いや、そうじゃない!!
順序がちがーう!








「なんでだよ?」








「だ、だって付き合ってても意味ないもん!」








「は…?」








「冷たいし。彼女なのに全然優しくしてくれないじゃない!!」








「ごめん。」









「浮気だってするし。大切にしてくれないし。」









あー、涙出てきそう。










「菜津美…本当ごめん。俺、愛されてるかわかんなくて。初めて女を可愛いって思ったし、初めて好きになったんだ。だからすげぇ不安で。でも菜津美のこと傷つけて、本当ごめんな?」







名前…
今更呼ばないでよ。




泣きそうで下を向く私の肩に優しくそっと手をのせる巧弥くん。








「巧弥くん…





















触らないで、虫唾が走る。」








「はっ!?」





「何?浮気の理由が愛されてるか不安で?はぁ?何それ。いみわかんない。初めて好きになったんなら優しくしろよ。わけわかんない。私はずっと傷ついてたよ?あんたのせいで。冷たい態度ばっかとってさ、さぞかし気分が良かったでしょうね?さぞかし安心できてたでしょうね?私のことはなんにも考えてなかったんだ?私の気持ちは無視だったんだ?ただ自分が安心するために私のこと傷つけてたんだ?
へぇー、そう。あんなこと言ったら私が許してくれると思った?ばっかじゃないの?考えが甘いんだよ。甘すぎるよ。そんな簡単に物事が思い通りになるとか思わないでもらえる?あんたみたいな最低な男、大嫌いだから。亜耶ちゃんとかと付き合えば?とりあえず私はお断り。」









「な…菜津美…」









「名前呼び捨てしないで。とても気持ちが悪くなる。」







「………………………………」








「言いたいことはこれだけよ。本当はもっとあるけどきりがなくなるから。じゃあね、甘ちゃん。今度からはもう少し物事を考えたら?」









………なんてこと!!?






私、なんて言ったの!?


覚えてないけど色々暴言はいたよね!?
自分が怖い!!!





でも…



すっきりしたぁ!














「ねぇ、巧弥くん〜!なっちゃんをふったってほんとぉ?」







「ま、まーな。」








「可哀想ななっちゃぁん!どんまい!」









は?
なにそれ?
ムカつく。
すごいムカつく。








「あははっ、今度は本当にふられちゃったぁ〜。









とでも言うと思いました?亜耶ちゃん、なにか勘違いしてるようだけど。私が振ったの。馬鹿にしないでもらえる?あんな男、こっちから願い下げ。よくあんな男と浮気してられんね。あー、まぁ亜耶ちゃんならお似合いかもね?」









「なっ!?馬鹿にしてんの!!?」









「してんの。気づかない?


あ!しーちゃん!また明日ね!バイバーイ!」








「う、うん!!バイバイ!」








あーすっきり!









「かなちゃん、帰ろー!!」









「あらぁ?宇佐さぁん!ふられたって本当?可哀想にね。」








「ありがとう。でも私からふってんの。あと勝手に憐れまないでもらえます?可哀想って、こっちのセリフ。自分の化粧のけばさ気づかない?ケバ子って呼ばれてるの気づいたら?」









「なっちゃん…!変わったね!かっこいい!」








「ブスに言われたくないわ「うるさいな。だから何?ブスに言われたんだよ?もっと恥じれば?自分の顔。」








「なっ!!」









「あははっ、ださーい藤川さん。藤川きみよさんっ」








「きみよ?へー、いい名前ね?」









とりあえず今日はすっきりした。
でも明日からこんなこと言えなくなるなぁ、絶対!
勇気でないよ…





ただ、私は自分の言いたいことを言えないような人にはなりたくない。









「ふわぁぁぁ。」






大きなあくびをして目をぱちぱちさせる。



えらい昔のことだったなぁ。







「ふぇぇん。ぅぇぇん。」








「あら、起きちゃった。」








可愛い私の天使は抱き上げると泣き止んで笑った。







「さてとっ、結婚記念日なんだから美味しい料理作らないとっ!」








あの頃の私。
可愛かったなぁ。






でも友達はやっぱり大切。
しーちゃん、最近神崎さんと喧嘩したらしいけどうまくやってるのかな?


かなちゃんは新しく出来た彼氏とうまくやってるかな?

巧弥くんは元気かな?






まぁ、きっとどこかで元気にしてるよね。









「ただいまー。」








「えっ!?あなた!!おかえりなさい!」