夏になれば「彼ら」が歌声を上げ、熱を放出するだろう――。


それでも彼にとっては、狭さも、熱さも、程よく感じるのかもしれない――。


ミナ、繭、茜、マリネと一緒にいたり、サユリに仕掛けられたり、ルナと密会するのも乙なものだが、いつもそうしてはいられない――。


各々に都合とタイミングがある――。


何よりも――


男には、独りの時間がたまには必要なのだ――。


「ここは、ちょうどいい――」


生徒会の備品から拝借した折り畳み式のパイプ椅子に座り、彼は心を開放し、澄んだ空を見上げる――。


至福の時――。





「んっ――」


揺らぐ雲の音、鳥達の会話に混じり、室外機の方で物音がする――。


彼は身構える――。


保守点検の業者――そんな話は聞いてない――。


だとしたら誰なのか――彼よりも先にここにいて何をしているのか――。


いや、この空間を味わえるのは彼だけ――。


曖昧だった物音は、はっきりと足音と解析され、こちらに近づいて来る――。


出入口は一ヶ所――。


仄かな風が運ぶ甘い香り――。


女生徒か――。


「ちょっと脅かしてやるか――」


そろりと立ち上がり、出入口の扉の横に身を寄せる――姿が見えた瞬間、側面から強襲する――。


更に足音が近づく――悪戯心の笑いを堪える――。




そして彼女の横顔を捉えた――。


「誰だあぁぁっ――」


「うわあぁぁぁぁぁっ――」