「ほらよ、残留のご褒美だ――」
臨時生徒総会から数日後、彼は桜先生に呼び出され、とある鍵を手渡された――。
「ちょっとした屋上へ通じる合鍵だ――卒業まで預けておく――」
「色々あった時は、そこで気分転換でもしろ――」
「ただし、他の奴には秘密にな――」
さすがに教室の上の広い屋上を贅沢に占有する為の鍵ではなく、エアコンの室外機が並び、その保守点検用に設けられた別の屋上に通じる鍵――。
故に、猫の額程だが自由に独占しうる「癒しの空間」ではある――。
通常、本校舎の屋上は立ち入り禁止――。
文化祭などの行事や、使用許可を得た部活動でもない限り、いつも閉ざされ、無音の空間――。
まして、保守点検用の小さな屋上など、誰も気に留めない――。
「見つかるな――それと――」
「飛び降りるなよ――」
「飛び降りませんよ――」
昼休み――桜先生の言葉を思い返し、彼は新たな秘密の空間で昼食と洒落込む――。
七、八歩も歩けば終点という正方形の「フリースペース」――その一辺に何処まで続くのかと思わせる室外機達が整然と並び、人一人が通れる点検用通路が平行して伸びる――。