彼は、「誘い」に乗り、周回路を外れ、森の奥深くへと入ってゆく――。


高く聳え、整然と並ぶ針葉樹が光を遮り、薄暗く冷えた空気が舞う小路を更に進む――。


どれ程、歩いただろうか、この世界の終点を伺わせる様に、降り注ぐ太陽の光量が徐々に増す――。




広がる鮮やかな世界――。


円形状の広場のそこには、色とりどりの花や、野草が不規則に陣取りながらも、華麗な表情を魅せていた――。


不規則だが、空間としての「調和」は保たれて、誰かの手入れを介在させる風景に、雑草の類はない――。





「こんな場所が――」


彼は感嘆し、更に歩を進め、草花の香りを楽しむ――。





「カサッ――」


反対側の森の奥で、獣道を踏みしめるかすかな足音――。


「誰か来る――」


せっかく見つけた「聖域」を他人に荒らされる――そんな悔しい思いを胸に、彼は身構え、神経を研ぎ澄ます――。



足音がはっきりと聞こえ、人影が見え始める――。



女性である事は、シルエットでわかる――。


瞳の焦点を絞る――。



「サユリか――」


思わず呟く――。