「先に行って――」


短い言葉に、彼はコタツを抜け出し、靴を履き、半分引き戸を開け、振り返る――。



「逢えて嬉しかったよ、サユリ――オレ、この場所、大切にするよ――」


「そう――鍵を預けた甲斐があったわ――」


「それと、膝枕程度ならいつでもしてあげるから、慰めて欲しくなったら言いなさい――」




「わかった――その時は頼むよ――」


サユリの「優しさ」を理解し、可愛らしくコタツに収まっている景色を惜しみながら、彼は戸を閉め、新校舎へと急ぐ――。







「おっ、何処行ってたんだテルっ――昼御飯、奢って貰おうと思ってたのに――」


ミナが彼の席で、いつもの仕草で「暴言」を吐き、待ち構える――。


「奢るって何だよ――ってか、昼休み始まって真っ先に何処かに飛んでったのは、誰でしたかねぇ――」


「オレは、森の散策と洒落こんでたんだよ――」


「あれぇ、途中から雨が降り出したけど――」


「わかってないなミナ――雨露に濡れた木々を見るのが、これまた乙なんだよ――」


「なんじゃそりゃ――」


ここで昼休み終了を告げるチャイムが鳴る――。