駆け足気味で、茜を追い抜く――。
「待って、テルくん――」
背後に茜の声――。
正面に生徒会室――横に見える階段の踊り場を突っ切れば、目的地――。
「茜、間に合いそうだ――」
彼は振り返り、言った――。
「危ないっ、テルくん――」
鬼気迫る茜の表情も、これはこれでなかなか、と思いつつ、彼は前に向き直る――。
「ごつんっ――」
鈍い衝突音――。
痛覚が、頭部から全身に駆け巡る――。
正確には、彼とぶつかった人間とのおでこ同士が衝突し、骨と骨が泣く音が廊下に響き渡っていた――。
「あれっ、おかしいな――体が揺れて、立っていられない――」
「謝らないと――」
「謝らな――」
「テルくんっ、大丈夫っ、テルくんっ――」
茜が叫ぶ――その声すら認識できない程に無音で、白い世界に彼の意識が溶け込んでゆく――。
「ごめん――――」
必死で絞り出した声を紡いだ瞬間、彼の意識は現実の世界を離れ、別の世界へと旅立った――。
彼を呼び戻そうとする茜の想いが、虚しく空気を震わせる――。