また一人、一人と自らその命を絶ってゆく――――
時代は2034年。
技術は大幅に進歩し、
コンピューターがすべてを管理し、
この世界に負けた者には、幸せの道はないように思える。
そんな、今から20年後、もしかしたら起こるかもしれない、近未来の話。
人々は、数十年前ならそこにいたであろう警備員の人の代わりに、人の顔を認識し、ゲートを開ける機械や、防犯カメラのある校門や、
会社の入り口に進んでゆく。
登校途中の生徒たちの手には、新しく発売されたiPhone24の端末。
挨拶もせずに、みんなそろって自分の端末とにらみ合いをしている。
今日のスケジュールをチェックしている者もいれば、
ゲームで遊んでいる者もいる。
小さな子供を持つお母さんまで、子育てロボットに赤ちゃんのカートを任せ、電子機器へ目を通している。
この世界に、かつて神がすべての生き物の為に与えた美しい贈り物であったはずの“自然”と呼ばれるものは着々と破壊されてゆき、道路の並木や、公園の木や草などはすべて人工的に、品種改良された作り物の美しさを放ち、並んでいる。
負けたらそこで終わり。そんな残酷な世界は、今日も秒針を進めていた。
自殺事件は、前とは比べものにならない程、格段に件数が増えてき、ついには日本国内で、一日に200名の人が、自ら命を絶つという数字も発表されている。
そんな狂った世界。
国の政府は、国民全員に、強制アンケートを実施した。
結果、自殺願望者は国民の半分を軽く上回る結果に。
その理由は、ただ一つ
「愛されたい」
そう、人との触れ合いが極端に少なくなったこの世界、人々は、人間を一番狂わせ、しかし一番人間らしさを与える力、“愛”に飢えていた。
それは、極端に「恋愛感情」だけではない。友愛、家族愛など、すべての愛が、この世界から消え去ろうとしていたのだ。
このアンケート結果をもとに、国は手始めにある実験を行った。
【sati司千side】
薄暗い部屋の中、俺、暗宮 司千(くらみや さち)はアンケートに没頭していた。
今まで、だれがこんなに俺に質問してくれた事があっただろうか。
この17年間生きてきて、最初に自分を知ろうとしているのが国が法律を無視して行う強制アンケートだとは、実に皮肉なものだ。
俺は、細身で色白。髪の毛も白く、目は血で真っ赤に染まっている。
そう、アルビノ。つまり先天性白皮症である。
男子にしては長めの、天パの髪を後ろで小さいが、結んでいる為に、いつもはかくれているうなじが風に触れて少し寒気がする。
「えー、次の問題は・・・・」
―――貴方の生きる意味は何?
俺はそこに迷わずこう書いた
{俺は、まだ知らない何か大切な事を探すために生きている。}
そう、この世界には何かが足りないんだ。どれだけコンピューターが、完璧に世界を管理しても。どれだけ殺人事件が減っても。どれだけ技術が進歩しても。決定的に、何かが欠けている。
そう、“何か”が・・・・
俺は目を細めて、アンケート用紙にかかれた次の質問へ目を通した。
【hibiya響弥side】
僕、紫月 響弥(しづき ひびや)は、アンケートをひらひらさせ、回答欄をどうにか埋めていた。
「ふーん、次は、Q貴方の支えとなっているひとは居ますか・・・だって~えーー!このご時世・・・・うーん・・・・。」
実にシュールだが、とりあえずこう書いた。
“マッ●関係の人々”
(いや、別に会った事がある訳でも、オタクでもないけど!)
だが、僕にとってマッ●は命だ。主食だ。宝だ。国宝だ。生き甲斐だ。
一瞬の出来事だった。僕の部屋に、何者かが入るドアの音が聞こえたと思ったら、僕のお腹には激痛が走り、犯人である少女は僕のアンケートを見て鼻で笑った。
「((フッ)このファーストフード厨が・・・」
「ちょ、舞留(まいる)!お腹痛いって!兄に対して何てことするんだよぉ・・・」
涙目になりながらお腹をさする僕を見て、再度「フッ」と笑うと、まだ小学5年生であるはずの彼女は、どうにも大人びた動作で部屋を出て行った。
「い、痛い・・・・・」