そんなこんなで場所はちょうどいい感じの席。
…なんか颯がすごい寝そうな気がしてきた。

「お前、何じっとこっち見てんだよ。何か言いたいことでも?」

「何か寝そうだなーっと思って」

「寝ねぇよ!そんなん絶対に…」

「どうしたの?何か急に声ちっさくなったけど?」

「な、何でもねえ!」

―ワケわかんない。
颯が一体何考えてるのか。
もしかして今さら映画見んのが嫌になったとか?

「颯…」

「なんだよ」

「やっぱ映画に行くのが嫌だったの?」

「はあ?」

「お父さんの代わりだし、それで強がってあんなこと、言ったんでしょ?」

「…んなことねえよ」

颯があたしの左手を握る。

「代わりだってよかった。お前と…その、何て言うか、一緒にいれるから」

「あ、う、ありがとう?」

「ほら、もう始まるぞ」

暗くなり始める会場。
けれどあたしの顔はきっとそれでも赤く見える気がする。