「xを代入して───……」


5限目の数学の授業。


担任の蒼野(あおの)先生、通称、あおのんの声をききながら、あたしは窓際のいちばんうしろの席から空をながめる。


七瀬(ななせ) 海音(みお)


青い海がみえるちいさな島に住んでいる、高校1年生。


肩までのびたアッシュベージュのストレートの髪は、あたしのおきにいり。


あたしが通っている高校は、島唯一の高校で、1学年、1クラスしかないちいさな高校。


となりの席で、腕をまくらのかわりにしてスースー寝息をたてているのは、幼なじみの一ノ瀬(いちのせ) 大空。


大空の色素のうすい髪の毛が、陽の光でよけいに茶色くみえる。


きもちよさそう……。


家がとなりどうしの大空とは、ちいさいころからなかよし。


「こらっ、大空ーっ!いっつもいっつも寝やがって。

俺の授業がそんなに嫌いかー!」


きもちよさそうにねむる大空をみつめていると、教卓からいつもの怒鳴り声がきこえてきて、クラスのみんながクスクス笑う。


この学校では、先生が生徒のことを下のなまえでよぶのはふつうのことだ。


「……ん……」


あおのんの怒鳴り声で、目をさました大空。