仕事が終わったら、
水族館に行こう。
朝、彼がそう言った。
行きたいなって言ってたの、
覚えていてくれた。
嬉しかった。
お昼に彼のケータイが鳴った。
電話に話しかける彼の声は
ひどく不機嫌で無愛想だった。
あんな顔もするんだ。
びっくりした。
結局、水族館には行けなかった。
ちびちゃんが幼稚園で熱を出して、
お嫁さんは仕事があるからと
代わりに彼が迎えに行くことになった。
「大丈夫だよ」
笑顔で送り出したはずなのに
「お願い、泣かないで」
彼が私の目尻に親指をそえる。
こらえきれない涙が頬をつたう。
大丈夫、大丈夫。
まだ、きっと、大丈夫。
彼といるときに感じる
この気持ちがなんなのか、
もうとっくに気づいてた。
でも、大丈夫。
まだ戻れる。
気づかないふり、できる。