こんなにも簡単な言葉。


 みんなよく使っている言葉。

 なのになんであたし、今まで気づかなかったのだろうか。



 あたし。あたし……


















 そう思っている間に、玲汰先生の家に着いていた。


 目の前には【506号室】の文字が見える。


 鍵を使って勝手に入るのは今の関係からして可笑しいから、あたしはあえてチャイムを鳴らした。




 雪で濡れた冷たい身体をブルッと震わせる。



「玲汰、せんせっ……」


 今、一番会いたい人がいる。

 そして今、その人に伝えたい言葉がある。


 夏希には、それができないけれど。


 今は玲汰先生だから。

 まだ、遅くない。

 諦めちゃ、ダメだ。