そしてお母さんの方に視線を送る。


 お母さんはゆっくりと口を開く。


「……怖かったからよ。親のくせに恥ずかしいんだけど、夏希が死んでから、あたし達は子供とどう接したらいいか分からなくなってしまって。沢山考えたの。千夏と夏希とで接し方が違ったのかなって。これから、どんな風に千夏と関わればいいのかなって……そうやって悩んでいたら、なにを言っても駄目のような気がして。どんな教育の仕方も、駄目な気がして……」


「……そう、だったんだ」



 あたしが悩んでいる時、辛くて仕方がなかった時、お母さん達も悩んでたんだ。

 知らなかった。


 あたし、愛されてなかったわけじゃ、なかったの……?



「……でも、心配はしていたわ。何処に行って、なにをしているのか。変なことに巻き込まれていないかって。貴方がいない夜は、心配で眠れなかったわ。それに、千夏が心配だから、二人とも早く帰るようにしようって決めていたし」


「えっ……」



 知らなかったことが次々と明らかになる。



 二人が残業をしないようにしていたのは、あたしのためだったの?


 あたしが玲汰先生の家で泣いていたあの日も、お母さん達は心配していたの?

 一気に罪悪感が湧き上がる。



 そっと、あの日を思い出す。



『なあ、親に連絡だけでも入れといたら?心配、するだろ』

『いいの。どうせ心配なんてしてないから』


 あの会話を玲汰先生としていた頃、二人はあたしの帰りを待っていたのだろうか。



 ー-心配してない。


 よく言えたものだ。


 何にも知らなかった。

 あたしは、二人にちゃんと愛されてるじゃないか。