お母さんはそう言うと、小さく微笑んだ。




 玲汰先生、あたし、頑張るからね。

 鍵を見つめながらそう思った。



 そしてゆっくりと息を吸うと、あたしは顔を上げ、両親を見る。




「あの、ね……二人に、話したいことがあるの」


「……なんだ?」


 お父さんもお母さんも落ち着いた様子だった。

 まるで、あたしがなにかを話そうとしていることを察していたかのように。




「……夏希の、こと」


 そっと出したあたしの言葉に、二人は返事をしなかった。

 だけどあたしを真っ直ぐ見つめる目が、なにかの返事のように思えた。




「あたし、ね。夏希のことを今も、引きずってるの。夏希を殺したあたしを、ずっとずっと責めて。嫌って。後悔して。」


「……うん」


 お母さんが優しい声でそう頷いてくれた。




 話さなければ。


 いつしかあたしの心に、恥とか恐怖とかはなくなって、話さないとという使命感にも似た思いでいっぱいになっていた。




「すごく、辛かった。自分を責め続けることが。だから何度もそれを止めようと思った。でも、それは逃げのような気がして……楽になりたいだけのような気がした。でも、それこそ違った。あたしね、自分を責めることで逃げてたんだと思うの。……夏希の死から」