男の人の声はまだ私の耳に残ってる。
低くて落ち着ける声。
家に帰ってからすぐに亜美子にメールした。
亜美子っていうのは高校に入ってから出来た友達のこと。
同じクラスで、よく相談とか乗ってくれる。
『今日本屋さんでかっこいい人見掛けて話しちゃった!』
私が送ってしばらくして亜美子からメールが届く。
『へぇ~、よかったね。アドとか聞いた?』
『聞いてないよぉ。名前も歳もわかんない。年上なのはたしかだけど』
私が送ると亜美子からの返信はさっきよりも早く、着うたが流れて思わずビクリとしてしまった。
『かっこいい人いたならアドくらい聞きなさいよ』
亜美子…冷たい。
メールを見てしゅんとする。
それでもまたメールを打ち始めて、何通か送り合ったあと、メールは終了した。
いつも通りに夕飯を食べて、いつも通りにお風呂に入って、いつも通りに布団に潜る。
でも頭の中はあの男の人のことでいっぱい。
何度もあの声を繰り返してる。
17歳の春の終わりに、名前も年齢もわからない人を好きになった。
私の生まれて初めての一目惚れからの恋が、今日から始まったんだ。