「あの…!」


少しずつ小走りに近い歩き方で、男の人のところまで行く。


男の人は驚いているようだった。


当たり前だけど…。


「さっきはジッと見たりしてすいませんでした!」


勢いよく頭を下げて謝る。


どんな反応してるかな…?


いきなり知らない人に声掛けられて、いきなり謝られて。


普通に考えたらすっごい迷惑な話だと思う。


でもこれがちょっとしたキッカケにでもなればいい。


ただそれだけでいいから…。


「えっと…」


頭を下げてる私の耳に低い声が届いた。


なんて言っていいのかな。


この声、すごく好きかも。


恐る恐る顔を上げると、黒いスーツにさっきは見えなかったワインレッドのネクタイが見えた。


さらに上を見ると男の人の困った顔がある。


「すいません、いきなりで困りますよね…」


なんか自分のしたことがすごい恥ずかしくなってきた。


頬に、今度は恥ずかしさで熱が帯びる。


やばい…泣きそうかも。


よく考えれば、もっと可愛い格好してくればよかったって、行動してから冷静になれてる。


「俺が邪魔だったわけじゃなくて?」