お母さんが駐車場を回っている間に、私だけ先に本屋さんに入った。
雨に濡れて、店内が多少蒸す。
腕で顔を擦りながら小説コーナーに向かった。
この前と同じ棚に着くと、男の人がいたところを見る。
ここにいたんだよね…。
今日はいるハズないのに期待してた分だけ、会えなかったことがショックを受ける。
小さくため息をついて棚の向こう側を見た。
棚からひょっこりとオレンジ色の頭が顔を出してる。
どうやら向こう側の人は屈んでいるらしい。
見覚えのある髪の色。
こんな目立つ髪はあの人しかいない!
そう確信を持って、私はすぐに棚の裏側に回る。
そこにいたのは私服姿のあの男の人だった。
低い確率の中で会うことが出来たのに、なんて話し掛けたらいいかがわからない。
だって一回しか話したことないんだもん。
心臓がドキドキいってる。
1つ深呼吸をして、思い切って声を掛けることにした。
「あの…」
男の人は私の声に気づいてこっちを見る。
また目が合いそうになって、私はギュッと目を瞑った。
「ああ、この前の!」
男の人の低い声が耳に届く。