遊び疲れた頃、お母さんから電話の着信があった。
潤と亜美子に“バイバイ”して、今朝の待ち合わせ場所だった駅の噴水のところまで歩き、お母さんの待っている車に乗り込む。
「おかえり。楽しかった?」
「うん!楽しかった!」
「よかったね」
そんな話しながら雨の降る外の景色を眺める。
「どっか行きたいところある?」
特に行きたい場所はなかったけど、少し考えているとある場所が浮かんだ。
あの名前も年齢もわからない男の人と出会った場所。
「この前の本屋さん!」
私の答えにお母さんはクスクスと笑いながら返事をする。
今日会えるかなんてわかんないのに、あの本屋さんに行きたくなったの。
確率は低くても、もし会えたら嬉しいじゃん。
本屋さんに向かう途中の一番最初の信号に引っ掛かった。
隣の車線にはシルバーの車が止まってる。
雨で運転してる人の姿がよく見えないけど、この色の車を見ると大槻先生を思い出して顔がにやけてしまう。
そんな私をお母さんは隣に座って不思議そうな顔で見てた。
大槻先生の車に乗ったことは潤以外には話してない。
だからお母さんにも秘密なの。